マーラーとラフォルグには共通点がありました

グスタフ・マーラーGustav Mahler, 1860-1911)の音楽に何故惹かれるのか、自分でもよく分からないまま、ずっとマーラーのCDを聴いて来ました。何かがあると、増え続けるマーラー・コレクションの中からお気に入りのマーラーを引き摺り出し、聴きました。理由ははっきりしないままでした。ところが、数日前、私がマーラーに惹かれる、その理由が突然分かったのです。

 のっけから引用で恐縮ですが、「KAWADE夢ムック マーラー」(河出書房新社、2011)の中で、片山杜秀さんはこう語っています。

 「日本人だとなかなかそうはいかないかもしれないけれど、少なくとも欧米人の記憶を刺激するマーチや民謡や童謡そのもの、あるいはその類似品みたいなものがちりばめられて、聴く人の個人的体験によって様々に反応し発火するのがマーラーなんですね。」

 つまり、片山さんによると、マーラーの音楽は、マーラーの同時代人、即ち、19世紀後半から20世紀にかけてドイツ・オーストリアを生きた人間なら誰でも知っている旋律の集合体だ、と言うのです。これには驚きました。

 私は学生時代、ジュール・ラフォルグ(Jules Laforgue, 1860-1887)と言う、19世紀末のフランスの詩人について勉強していました。そして、まさにこのラフォルグが、自分の詩の中に、聖書から始まって、当時の流行歌に至るまで、当時のフランス人なら誰でも知っている、ありとあらゆる言葉の断片を引用しまくっていたのです。

 私がマーラーの魅力に触れ、様々な指揮者による「交響曲全集」を片端から聴き始めたのは、40歳を過ぎてからでした。そのマーラーが、20代に読み耽ったラフォルグの音楽版だと分かった時の可笑しさを、どうか想像してみてください。