マーラーの交響曲で、好きなのは4番と9番です

マーラー交響曲の中で、一番好きなものは、と問われた時、私なら、9番です、と答えることになるでしょうか。特に、第1楽章冒頭で展開する、どこまでも広がる水面が闇の中で波立って仄かに燐光を発するような、あのイントロダクションに、私はとても惹かれるのです。

これがもしブルックナーであれば、細波は第1楽章で何度も何度も目一杯に光り、終楽章に現れてまた光り、となるのでしょうが、幸か不幸かマーラーブルックナーではありませんので、細波のパフォーマンスは第1楽章にしか現れません。あの「緊迫した安らぎ」の風景が 、それを追い求めた音楽家マーラーが最後に行き着いた「美」の風景なのだと思うと、感慨深いものがあります。

続いて好きなのが、第4交響曲です。私は中身がまだお子様なのか、何につけても甘口が好きなので、例えば西脇順三郎よりは瀧口修造シュルレアリスムを偏愛するのです。このような「私の好み」については、たいへん興味深いものを感じています。機会と時間とがあれば、このことについて、いつかゆっくりと掘り下げてみたい、と考えている次第です。

さて、マーラーの第4交響曲ですが、やはり聴いた人のこころにまず残るのは、第1楽章の冒頭部、咲き誇る花々から花弁が一斉に散りこぼれるように鳴らされる鈴の音色でしょう。いわゆる「マーラー好き」の方の多くは4番を認めないか、或いは高くは評価しないような印象があるのですが、如何でしょうか。と言うか、音楽に限らず、得てして芸術全般にあって、甘いもの、つまり解りやすかったり覚えやすかったりする(ように見える)ものに対する評価は、何故か「辛口」であることが多いように感じるのです。「好きずきなのだから、多少甘くても良いのではないか」、と私などは思うのですが……。美しさは、甘いつぼみの奥で、ひっそりと息をしながらすやすやと眠っているのですから。